第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
ドフラミンゴの能力とは、糸を自在に操ること。
糸といってもその形は様々で、人を操れるほどの強度を持つワイヤー、自然と体内に吸収される縫合糸など、使いようによっては人を殺すことも、生かすこともできる。
また、蜘蛛糸のように軽く、粘着力がある糸を出せば雲を容易に掴み取ることができ、振り子の要領で水平飛行が可能になる。
ヒュン、ヒュンと音を立てながら空を飛んで行くドフラミンゴ。
地上ではリク王家の銅像が倒され、代わりにあらゆる所にドンキホーテファミリーのシンボルが描かれているのを見て、満足そうに笑っていた。
「見ろ、“知らない”というのは恐ろしい」
「・・・・・・・・・・・・」
「あそこにいる奴らの多くが昨日、家族を失った。だが、悲しむそぶりもねェ・・・なぜなら、“忘れちまった”からな」
ドフラミンゴに剣を向けた衛兵や一部の国民たちは、シュガーの能力によってオモチャに変えられている。
彼らの存在は、すでに愛する者や家族の記憶から消えてしまっていた。
記憶が無いための、平穏。
策略によって造られた、平和。
どちらも偽りであることを、国民たちは知らない。
「ドフラミンゴ様!!」
一人が空を飛ぶドフラミンゴに気づき、大きく手を振ってきた。
すると他の者も嬉しそうに次々と手を振ってくる。
「新国王!!」
「リク王を倒してくれた、英雄だ!!」
クレイオはその光景を見て、マリージョアを思い出した。
天竜人は誰もが傍若無人で、下々民の命などゴミ同然としていた。
そんな彼らを“世界の創始者”ともてはやし、下々民と一緒にされたくない一心で付き従っていた従者たち。
そして、“下々民以下”の扱いを受けていた奴隷たち。
だけど天竜人も、従者も、奴隷も、マリージョアから出たことのない人間は何も知らない。
どんなに美しい島でも、全て偽りの悲しい島になってしまうことがあることを。
その凶行を、たった一晩で成し遂げてしまう人間もいることを。