第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「空を飛んでみてェか?」
重たい窓を軽々と片手で開けながら、ドフラミンゴは天を仰いで笑った。
「はい・・・翼を持たない人間の憧れですから・・・」
“悪魔の実”を食べた人間以外は、自らの力で空を飛ぶことなど不可能だ。
───鳥のように翼があったなら、窓から飛び降りて天竜人から逃げることができたのに。
幼い頃、そう思ったことがある。
「おれにしっかりとつかまってろ。落ちるんじゃねェぞ」
ドフラミンゴはクレイオの身体を懐に抱えながら、空に向かって右手を高く突き出した。
途端、キラリと光る細く真っ直ぐな線が雲に向かって伸びる。
「一応言っておくが、“落ちよう”ともするなよ」
自らの意志で身を投げることができないよう、クレイオの身体にも糸を幾重にも巻きつける。
そして二ヤリと笑うと、オモチャを独り占めする子どものようにクレイオを抱きかかえながら窓枠の上に立った。
眼下には、戦闘の痕が生々しく残った民家。
頭上には、火災の煙が集まってできた暗雲。
「“空の道”が途切れる場所までいくか・・・」
向かい風を受け、ピンク色の“翼”が大きく広がった。
この大きな鳥はいったい、私をどこへ連れていこうというのか。
クレイオはドフラミンゴの顔を見上げ、眉根を寄せた。
その不安を悟ったのかもしれない。
「安心しろ、地獄じゃねェよ」
フフ、と悪魔の口元に笑みが浮かぶ。
「天国でもねェがな」
その言葉が終わるや否や、二人の身体は空に向かって飛び上がっていた。