第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
ガチャリとノックも無しにドアが開く。
入ってきたのは、この国の新たな王だった。
「あら、若様」
「モネ、ここで何してる?」
ドフラミンゴに驚いた風はなく、ただ挨拶替わりにそう言っただけのようだ。
ゆったりとしたカットソーに細身の柄パンツ、ピンク色のコートとお馴染みのいでたちをしている王に、モネは微笑みながら歩み寄った。
「クレイオに部屋が気に入ったかどうかを聞いていただけです。もしまだ必要なものがあれば、と思って」
「ならベッドをもっと大きなものに変えろ。おれには狭すぎる」
「失礼、若様も使用なさることを失念していました。すぐに手配します」
モネはさしずめ、ドフラミンゴの秘書といったところか。
美しく聡明なだけでなく、したたかさも持ち合わせている、ドフラミンゴが最も気に入るタイプの女性だろう。
だけど、ドフラミンゴの興味を引いているのはモネだけではないようだ。
「どうした、浮かねェ顔をしているじゃねェか」
モネが部屋から出て行ったあと、クレイオの身体を抱き寄せたドフラミンゴの腕から女物の香水の香りが漂ってきた。
それは、昨日までドレスローザの王女としてこの王宮に住んでいた女性のもの。
彼女は今、ドンキホーテファミリーの一員としてここにいる。
───ただのオモチャの自分とは違って・・・
「いいえ、なんでもありません」
クレイオはドフラミンゴを見上げて微笑んだ。
さもなければ、モネの妹シュガーによって“本当”にオモチャにされてしまう。
“お前は今、この瞬間からおれの玩具だ”
“興味が無くなったオモチャを、あの方は簡単に捨ててしまうから。それはそれは無残な形で”
生きることに執着はないけれど、死を望んでいるわけでもない。
たとえ天竜人の欲望の産物だとしても・・・やはり、この世に生を受けたのだから。
その気持ちを知ってか、知らずか。
ドフラミンゴはクレイオを抱き上げると、そのまま部屋を出て廊下の窓の前に立った。
「クレイオ、お前に渡してェものがある」
それがいったいどのような贈り物なのか、クレイオには想像もつかなかったが・・・
そう言ったドフラミンゴの口元には笑みが浮かんでいた。