第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「正直に言う。おれはお前が憎い」
グラディウスの言葉に、一切の冗談は無かった。
もともと冗談を言えるような器用さは微塵もなく、どこまでも真っ直ぐな男だ。
クレイオが黙っていると、一呼吸置いてからその先を続ける。
「さっきお前は、若が一時の感情でおれを殺してしまったら・・・と言ったが、若は“一時の感情”に支配されるような人ではない」
ドンキホーテ・ファミリーの一員として迎え入れてもらった時から、忠実な部下としてボスを支えてきた。
だから分かる。
「だが・・・お前が絡むと、若は“一時の感情”で動いてしまう」
“オモチャはいくらでも替えがきくが、家族はそうもいかねェ”
あの時、確信した。
このままクレイオを生かしておくことはできない、と。
グラディウスがクレイオの方に向かってゆっくりと歩いてくる。
一歩、一歩、ブーツの音をたてながら。
二人の距離が近づくにつれ、間にある空気が徐々に押し固められて真空状態になっていくような息苦しさを覚えた。
「お前のせいで若の計画が崩れるようなことがあるなら、おれはお前を殺す」
「・・・・・・・・・・・・」
「若にとって邪魔になる者は、たとえ若の怒りを買おうとも殺す」
それによって自分が殺されてもいい。
ドンキホーテ・ドフラミンゴがその野望を叶えるのであれば。
とうとう二人の距離が無くなると、グラディウスの右手がクレイオの喉元を掴んだ。
その細い首にかけられた一粒真珠のネックレスが揺れる。
「お前はあの時、天竜人の船とともに海へ沈むべきだった」
そのまま泡となって消えてしまえばよかったのに。
「お前は若の“弱点”となる。そして、若に“弱点”はあってはならない」
そのまま首の骨を折ってしまうつもりなのか。
グラディウスの右手に力が込められた。