第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「おれは、それが若の意思なら殺されても構わない。なぜ、余計なことをした?」
こめかみに血管を浮き上がらせながら詰め寄るグラディウスだったが、クレイオは何故か可笑しそうに笑っていた。
「ふふ・・・別に貴方を助けたわけじゃない」
「なんだと?」
「確かに、あの時のドフラミンゴは貴方を殺す気だった」
家来や奴隷など、死んでもすぐに替えがある。
それだけ裕福な少年時代を過ごしていた彼にとって、人の命などゴミ同然。
でも・・・
「貴方を殺すことを本心から望んでいるわけではなかった」
人間に堕ちてから、当たり前だと思っていたもの全てが無くなった。
家来も、奴隷も、財産も、そして・・・家族も。
「ドフラミンゴにとって、貴方達は“家族”よ。大切な人を殺すのはロシナンテで最後にしたいと思っているはず・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
その瞬間、グラディウスの脳裏に、真っ赤な血で染まった雪景色が蘇った。
“なぜおれが実の家族を二度も殺さなきゃならないんだ!!!”
弾倉が空になるまで鉛玉をコラソンの身体に撃ち込んでいたドフラミンゴ。
その顔に残忍さや冷酷さは感じられず、実の弟を殺す兄にしては悲壮感に近いものを漂わせていたことを、傍らで見守っていたグラディウスは知っている。
「当たり前にあったものを失う悲しみも知っているあの男がもし、一時の感情で大切な部下を殺してしまったら・・・」
───殺してしまったら?
それによって彼が苦しもうが、それは自業自得だ。
なのに、そんな姿を見たくないと思ってしまう自分がいる。
「とにかく・・・グラディウスを助けるためにしたことではないわ」
「・・・・・・・・・・・・」
暗く長い王宮の廊下。
どこかの酒場が奏でているのだろうか、情熱的なタンゴの調べが風に乗って響いてくる。
すると、グラディウスは顔に陰を落としながら口を開いた。