第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
町中に海兵が溢れている中、誰からも見つからずにいられる場所は一つしかない。
それはクレイオが15歳で地下牢から解放されてからというもの、ずっと“家替わり”としてきた場所。
「サンジ、もう大丈夫」
ホテルの2階、一番奥の部屋。
サンジがドアを蹴り飛ばしたせいで部屋の中が丸見えとなっているが、このホテルは昼間になると数人の従業員以外は誰もいなくなる。
サンジが海賊であることもまだバレていないようだから、2時間程度なら隠れていられるはずだ。
クレイオはサンジの腕から降り、手を引いて部屋の中へ入った。
サンジはもう少し抱いていたかったのに、と残念そうな顔をしたが、乱れたままのシーツを見て眉をひそめる。
「クレイオちゃん、一つだけ聞かせてくれ」
“望まれぬ子”として生まれ、“許されぬ子”として育った。
存在すら認められず、それでも太陽の光に憧れている君は、いったい何を求めている?
「君には夢はあるのか?」
閉じられたカーテン。
乱れたシーツ。
男が吐き出した欲望の痕。
毎日それを眺めて生きる君は、いったい何を望んでいる?
サンジの問いかけに、クレイオはしばらく黙っていた。
人として生まれたからには、誰にだって“夢”はあるだろう。
そうでなければ、ただ生きるということほど辛くて大変なことはない。
「そういうサンジは夢があるの・・・?」
質問を質問で返したクレイオに、サンジはゆっくりと瞳を閉じ、そして微笑んだ。