第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
サンジは一歩ずつ海兵達に近寄りながら、ぐるりと周囲を見渡した。
「いいか、お前ら・・・おれの後ろにいるレディーに、かすり傷一つでも負わせたら命は無いと思え」
咥えた煙草から灰が落ちる。
関係のない住民達はみんな避難しているようだ。
少々暴れても問題は無いだろう。
「そ、それ以上近づくな! 撃つぞ!!」
サンジの真正面にいる海兵が叫んだ。
懸賞金7700万ベリーの海賊の迫力に怯んだのか、銃を持つ手が震えている。
「狙いやすいようにわざわざ目の前に立ってやってるんだ。誤ってクレイオちゃんに当てるようなことだけはすんじゃねェぞ?」
おそらくそれが、その海兵が聞いた最後の言葉。
次の瞬間、海兵の身体は大きく宙を舞い、持っていた銃は石畳の上でバウンドをしていた。
振り上げられた“黒足”が、唖然としている海兵達に向けられる。
女性に対してはあれほど優しい男が、武器を持つ海兵には無慈悲で冷酷。
武器の向けられた先に女性がいれば、それはなおさらのことだった。
「クレイオちゃん、ちょっと離れていろよ」
「は・・・はい!」
「これだけの数が相手だと、蹴り飛ばす方向までは加減できねェからな」
ぶつけてしまったら大変だ。
そう言って二ヤリと笑うその顔はどこか楽しげ。
クレイオが慌てて噴水から離れたのとほぼ同時に、一人の海兵が叫んだ。
「撃てェ!!」
雨のような銃声が、鼓膜を突き破らんばかりだ。
サンジが立っていた場所を中心として発生した凄まじい砂埃と突風が、クレイオの髪を大きく靡かせた。
「サンジ!!」
あれだけの銃弾を浴びて無事でいるはずがない!
クレイオはその場にへたり込みながら、煙の方に目を向けた。
海軍はサンジを殺すことに躊躇いはない。
たった一度の攻撃が、それを物語っていた。
どうすることもできないまま、必死にサンジの名前を呼んだクレイオの瞳に映ったもの。
それは、信じられない光景だった。