第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「ごめんよ、クレイオちゃん・・・! 本当に・・・ごめん」
「サ、サンジ?!」
額を地面に擦りつけ、大粒の涙を流しながら謝罪するサンジ。
クレイオはその行動の意味が分からず、慌てて自分も跪くと、その顔を覗き込んだ。
「どうして貴方が謝るの?」
母親を強姦したのも、
先生を強姦したのも、
クレイオを娼婦にしたのも、
元凶の全ては男にある。
「貴方は何も悪いことをしてないでしょ?」
「だけどおれは、同じ“男”として君に謝りたい!! 君の母親を婚礼前夜に犯しちまってごめん・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」
「君の大切な先生を犯してごめん・・・! 死なせてしまってごめん・・・!」
「サン・・・ジ・・・」
何度も何度も地面に打ち付けるサンジの額からは血が滲んでいた。
「君を・・・冷たくて暗い地下牢に15年も閉じ込めてごめん・・・!」
自分などが謝ったところで、クレイオが味わってきた苦しみを消すことはできない。
しかし、サンジには謝り続けることしかできなかった。
「優しい君に、性欲処理をさせてしまってごめん・・・!」
サンジはクレイオが出会ってきた男達の中で唯一、欲望を抑えた男。
その彼が今、顔も知らない人間の罪を背負い、謝り続けている。
「おれは男として! これまでと、これから君に関わる、全ての野郎共の代わりに謝りたい・・・!!」
そんなサンジに心を揺さぶられ、クレイオは堪えきれずに両手で顔を覆った。
次の瞬間。
「・・・ッ・・・ック・・・ひっく・・・」
小さな嗚咽。
それはだんだんと強くなっていく。
「・・・ヒック・・・ああ・・・ああ・・・!!」
地面に零れ始めた、大量の涙。
太陽の下は、クレイオを閉じ込める鉄格子も、クレイオの身体を求める男もない。
こんな幸せな場所の下では、絶対に泣かない。
そう決めていたはずのクレイオが、土下座をするサンジにもたれかかり、咽び泣いた。
それはまるで、生まれた瞬間から取り囲んでいた“闇”を涙で洗い流すかのように───