第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「この島に残って娼婦になろうと決めたの」
闇から生まれた私だからこそ、その恐ろしさをよく知っている。
闇に育った私だからこそ、その恐ろしさに耐えることができる。
先生が命をかけて私を守ろうとしてくれたように・・・
私も、太陽が照らすこの島の人達を守りたい。
「性欲はとても怖いものよ。放っておいても死なないけれど、溜まりに溜まったその欲は、いつか人を傷つける」
それは、サンジの手料理を食べていた時にも口にした言葉。
「二度と私のような子どもが生まれないように・・・悲劇の連鎖は断ち切らないといけない」
クレイオは右腕を太陽に向かって伸ばし、キモノの袖を揺らせた。
「こうしてワノ国の服を着ていれば、私がこの島で生まれた人間なのか、別の島から来た人間なのかアヤフヤにできるでしょ」
愛する人とだけでは埋められない性欲は、私に向ければいい。
先生が遺してくれたこの技術で、全て吸い取ってあげる。
私は純潔を守る、淫魔。
「サンジ・・・これが私よ」
真っ直ぐと目を見つめ、ニコリと笑う。
「私は、この島で“たった一人”の娼婦であることに誇りを持っている」
ほかに娼婦を必要としないほど、この島の男達は満たされている。
貴方の言う“幸せ”が、いったいどういうものか私には分からない。
死んだことになっている私にとっては、こうして太陽の下にいることだけで幸せなの。
「───太陽の下では笑っていなくちゃ」
だからもう・・・私のためにそんなつらそうな顔をしないで、サンジ。
そう言って海賊の頬に優しく触れるクレイオを、どうして抱きしめずにいられるだろう。
「クレイオちゃん・・・おれには言葉がねェ・・・」
ただ、涙が溢れてどうしようもない。
月下香とキモノをまとい、男を誘う娼婦。
これほどまでに純粋で、穢れのない心があっていいのか。
サンジは立ち上がると、崩れ落ちるようにクレイオの前で土下座をした。