第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「クレイオちゃん・・・」
いつしかサンジの額には大粒の汗が滲み、咥えていたはずの煙草は石畳の上に落ちていた。
生まれてすぐに、誰の愛情にも触れることができない暗い地下牢に閉じ込められたクレイオ。
“お父さん、出して!!”
それが、どれほど怖く、どれほど悲しいことか、サンジには痛いほど分かった。
強姦によって出来たとしても、親が望む“形”で生まれなかったとしても、その子どもに罪などない───
「つらかっただろう・・・許せねェ・・・」
するとクレイオはゆっくりと微笑んだ。
「でも、私は恨んでいない・・・だって結局、二人は私を殺さなかったんだもの」
“親の愛情”がどのようなものか知らない。
“友達”という存在も知らない。
だから、そんな自分が“不幸”だということも知らなかった。
でもある日、クレイオは“世界”を教えてくれる人に出会った。
「10歳になった頃、国王は私に家庭教師をつけた」
それは、若くて聡明な女性だった。
彼女は毎日地下牢を訪れ、読み書きと、最低限の知識を教えてくれた。
文字から文学へ
数字から計算へ
物語から歴史へ
少しずつ、少しずつ、クレイオの世界を広げてくれた。
その先生はいつも決まって最後にこう言った。
“クレイオ、知識は生きていくための力よ。生きるためにはいろんなことを知らなければいけない”
「先生には心から感謝している。先生がいなかったら、私はこうして一人で生きていくこともできなかった」
そして・・・
「先生がいなかったら・・・私は“娼婦”になっていなかった」
彼女の教えを貫く。
それが、命を懸けて私を守ろうとしてくれた先生への恩返し。