第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「もちろん、島の人々はとても喜び、誕生を指折り数えていたそうよ。けど、いつまで待っても、“その日”は来なかった」
そこまでくると、クレイオの手が震え始める。
寒いからではない。
怖いからではない。
この先の話を、誰にも明かしたことがないからだ。
それを語ることは許されなかったし、あまりにもつらい過去だった。
「赤ちゃんは・・・誕生していた・・・でも、王家はそれを明かすことはできなかった。なぜか分かる?」
「・・・・・・・・・・・・」
「この島の王と王妃は、二人とも綺麗な金髪。だけど、その赤ちゃんの髪は違う色をしていた・・・!!」
何も知らずにこの世界に生まれ落ちた“女の子”は、王の血を継いではいなかった。
残酷な証となったその髪の色は、今サンジの隣で肩を震わせている娼婦の髪と同じ色。
「島の人には“死産”と発表された・・・そして、その赤ちゃんは誰の目にも触れられない、城の地下室で育てられることになった」
冷たい地下室の牢。
天井と壁の境目にはめられた、小さな明り取り窓から光が差し込む。
それが、クレイオの持つ一番古い記憶。
「クレイオちゃん・・・その赤ん坊って、まさか・・・」
サンジの心臓がドクンと大きく鼓動した。
どうか、自分が考えていることが間違っていて欲しいと、願わずにはいられなくなる。
しかし、クレイオは微笑みながら頷いた。
「王から最初に言われた言葉は、“お前は存在してはいけない”」
でも、もっとつらかったのは・・・
「母から最後に言われた言葉は、“どうして生まれてきてしまったの”」
闇の中で犯され、闇の中で産み落とし、闇の中に閉じ込める。
それが実の母が、娘に下した決断だった。