第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
この島で最も栄えている港町の中心には、船の形をした噴水が設置されている。
憩いの場ともなっている“小舟の噴水”と呼ばれるそれは、ゆっくりと船が海に沈んでいく様子を表しているという。
これは、造船業が盛んでありながら、毎年アクア・ラグナの水害に遭うウォーターセブンの船大工によって造られたもの。
ターコイズ色の水底には、島の人の願いを込めた銀貨が投げ込まれていた。
「ここでいいかい?」
サンジは白い石を組み立てて作った噴水の枠にクレイオを座らせ、自分もその隣に腰を下ろす。
まだ正午までは時間があるせいか、人の往来はそれほど多くない。
しかし、キモノを着ている女と、黒スーツを着ている男が並んでいる姿はかなり目立つのか、周囲の視線をずっと感じていた。
「ありがとう・・・」
わずかだが、クレイオに対する陰口も聞こえてくる。
“なぜ、娼婦が堂々とここにいるの”
“子どもが見ている場所で男と戯れないで欲しいものだよ”
“どっかに消えてくれないかねェ”
ヒソヒソと話す人間達をサンジは睨みつけたが、クレイオはただ目を閉じ、静かに上を向いていた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「あったかい」
太陽の下に立つといつも思う。
“あったかい”と。
「こうして目を閉じて太陽の方を向くと、瞼が赤く透けて見えるじゃない?」
「・・・?」
「血の色と同じ・・・」
そう呟き、ニコッと笑う。
「───生きているって証拠よね」
サンジにはその言葉の意味が分からなかった。
異国の民族衣装をまとい、透けてしまいそうなほど白い肌をした娼婦は、ゆっくりと目を開ける。
「私はこの世に存在しない女」
クレイオは、瞳を切なく揺らした。