第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
ドォン!!
鍵をかけていたはずのドアが大きく吹き飛ぶ。
その衝撃で部屋全体に激震が走り、クレイオにのしかかっていた男がバランスを崩し倒れこんできた。
しかし、その身体はクレイオの上に完全に倒れることなく、次の瞬間にはドアと同様にベッドの外へ蹴り飛ばされる。
「テメェ、クレイオちゃんに何してんだ!!」
聞き覚えのある声・・・
いったい、何が起こった・・・?
かろうじて見えたのは、飛び込んできた金髪の男が、細くて長い脚を振り上げたところまで。
「クレイオちゃん! 無事か!?」
我に返ると、心配そうな表情のサンジに顔を覗き込まれていた。
「口から血が出てるじゃねェか!!」
サンジはクレイオの流血に気づくと、額に青筋を立てながら床で転げている漁師に歩み寄った。
そして、頭を蹴り飛ばされたことをようやく理解し震えている男を、冷ややかに見下ろす。
「お前は、絶対にやっちゃならねェことをした・・・」
「な、なんだテメェ!!」
身長190センチはあろうかという巨体を軽々と蹴り飛ばした、その驚異的な力にクレイオは唖然とした。
客はおそらく、脳震とうを起こしているのだろう。
それでも立ち上がろうと、サンジの足首を掴む。
「オイオイ、汚ェ手で触るんじゃねェ」
ゾクッとするほど低く、非情な声。
クレイオには猫なで声を出していたコックと、同一人物だとはとても思えなかった。
「お前は、一番やっちゃならねェことをした」
「な・・・んだと?」
サンジは胸ポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつけた。
「男の手は、女を傷つけるためにあるんじゃねェ」
そして吐き出される、細い紫煙。
「男の手は、女を守るためにあるんだろうが」
激しい怒りを隠そうともせず、容赦なく客の顔の上に足を置いた。