第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
“おれはただ、娼婦としてではなく、普通の女の子として幸せになってもらたいって思っているだけだ”
サンジの言葉が木霊する。
・・・ねぇ、教えて。
貴方のいう幸せって何?
誰かに愛されること?
笑顔の絶えない生活を送ること?
私はそんなの望んでいない。
「おい、クレイオ! 何、手ェ休めてんだ」
ううん、違う。
私は、それを望めるような立場ですらない。
「オラ、さっさと咥えろ」
だって、私は・・・
この世界に存在してはいけない人間なのだから───
「クレイオ! テメェ、聞いてんのか!!」
髪を引っ張り上げられて強引に上を向かされる。
その痛みで初めて、自分が客への愛撫を拒んでいたことに気が付いた。
「ご・・・ごめんなさい。今日は無理・・・」
「ハア? おれを朝まで待たせておいて、一度も抜かずに終わりって言いてェのか?」
「体調が・・・優れないの」
また性器を口に含んだら、本当に嘔吐してしまいそうだ。
それに、もう見るのも触るのも嫌だ。
いったい、どうしてしまったのだろうか。
「さっきの変な眉毛の金髪野郎とは、一晩中ヤッていたっていうのにか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「女に殴られて情けねェ顔で立ち尽くすような男のどこがいいんだ」
「あの人は関係ない。本当に気分が悪いの」
サンジのことは考えたくもないのに、どうして顔が思い浮かぶのだろう。
どうして、言葉一つ一つが蘇ってくるのだろう。
「お金はいらないから、今日はこれで終わりにして。仕事もあるでしょ」
「そのことなら心配するな。昨日“麦わら海賊団”が暴れてくれたせいで、今日は船を出すなと海軍から言われている」
漁師をしている客は二ヤリと笑った。