第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「そいつは胸張って自分のことをショーフって名乗らなかったのか?」
“私は娼婦よ。貴方、女を抱きたくて仕方がないって顔をしている”
「自分のしていることを隠そうとしてるのか?」
“食欲を満たす貴方の才能は喜ばれるのに、性欲を満たす私の才能が認められないのは何故かしら”
「もしそうじゃねェんなら、サンジがなんて言おうと、そいつはショーフなんじゃねェのか?」
自分を偽らず、はっきり娼婦と名乗ったクレイオ。
ルフィの簡単な疑問が、大事なことを気付かせてくれた。
サンジが唖然としていると、ルフィはニッと笑った。
「おれだったら、何にも知らねェ奴にいきなり海賊を辞めろなんて言われたら腹立つなー」
海賊王になると断言し、海賊である自分を誇りに思っている。
そのルフィの信念と覚悟を知っている人間は、彼に海賊を辞めろなどと決して言わない。
何より、サンジ自身がルフィはいつか海賊王になる男だと信じている。
“貴方は自分がコックだと誇らしげに言う。なのに、どうして私が娼婦でいることに誇りを持ってはいけないの? どうして幸せではないと決めつけるの?”
「おれは・・・クレイオちゃんのことを何も知らない・・・」
彼女のことを知ろうともせずに、娼婦を辞めさせようとした。
それは彼女に対する“侮辱”だ。
「おれは最低な男だ・・・」
娼婦も、海賊も、世間から見れば“はみ出し者”。
どちらも異端児であるのに、どうしてその存在を認めてやろうとしなかったのだろう。
「ルフィ・・・悪ィ」
「どうした、いきなり?」
「朝飯の準備が終わってねェが・・・用を思い出した」
「・・・・・・・・・・・・」
多くを語らずとも、ルフィはサンジの言いたいことを理解したのだろう。
「───おう、行ってこい」
何も聞かず、笑顔で送り出す。
自分の信念のままに行動しながらも、誰かのために傷つくことを躊躇わない、“麦わらの一味”の船長。
彼の仲間もまた、そういう男だということは、他ならぬルフィが誰よりも知っていた。