第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「悪い・・・ルフィ。作り直すから待っててくれ。これはおれがあとで食う」
自分のしたこととはいえ、素人でも犯さないようなミスにショックを隠せない。
皿を下げようとすると、ルフィはしっかりとそれを掴んで首を横に振った。
「いいよ、これはおれのだ。横取りすんな」
「バカ、腹壊したらどうするんだ」
「だいじょーぶ!」
サンジが止めるのも聞かず、豪快に残りを全て口の中に入れてしまう。
いくら腹が減っているからとはいえ、残飯を漁るカラスだって吐き出してしまうようなシロモノなのに、ルフィは20個の卵を使ったオムレツを綺麗に平らげてしまった。
しかし、やはり相当カビ臭く、しょっぱかったのだろう。
鼻をつまみながら、慌ててピッチャーの水を喉に流し込んでいる。
「ひー! くせェ、しょっぺェ!!」
「お・・・おい、大丈夫か、ルフィ?」
このおれがマズイ飯をつくるなんて・・・
いったい何やってんだ、クソ。
するとルフィは口を拭いながら顔を上げ、サンジをじっと見つめた。
「───お前こそ大丈夫か、サンジ」
いつも真っ直ぐで、物事の本質と核心を突くルフィ。
彼が真剣な表情になった時、それを見た者はどんなにうまくウソを吐こうとも、自分を偽ることができなくなってしまう。
「な、なんだよ、急に」
「おれは知ってるぞ。普段のお前だったらこんな飯、絶対に作らねェ」
「・・・・・・・・・・・・」
「別に話したくねェならいいけどよ」
船長はテーブルに頬杖をつき、サンジを見上げながら足をブラブラと揺らした。
「やっぱおれは、お前が作る美味い飯の方がいいなー」
白い歯を見せて笑う屈託のない笑顔に、それまで仲間に弱みを見せることができないでいたサンジの心が、少しずつ解きほぐされていくようだ。
ルフィにつられるようにして、言葉を失っていたコックの顔にもようやく笑みが戻る。
「仕方ねェ・・・お前には話すよ」
まだナミ達は起きていないようだから、誰かに打ち明けるなら今しかないだろう。