第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
それから数十分後。
サンジはサニー号のキッチンにいた。
クレイオに殴られた後、行く当てもなくフラフラと街を歩き、気がつけば見慣れた場所にいた。
仲間達がいる船のキッチン。
無意識のうちにここへ来たのはきっと、サンジにとって世界で一番落ち着く場所だからなのかもしれない。
ジュー、ジュー・・・
まだ寝ている仲間のために朝食を作っていると、ガチャリとドアが開く音がした。
「おお、サンジ。帰ってたのか」
寝癖がついたままの髪で、目をこすりながら入ってきたのはルフィ。
食べ物の匂いにつられて起きたのだろう。
「腹減った。飯はまだか?」
「じゃあ、これでも食っとけ。あとでホットケーキも焼いてやる」
「うまそ~!」
ルフィ用に作っておいた特大オムレツを渡すと、目を輝かせながらかぶりついた。
そのあとはいつも“うんめェ~!”とお決まりの文句が続くはずなのに、何故かモグモグと口を動かしたまま何も言わない。
「どうした?」
不思議に思って振り返ると、ルフィは首を傾げながら“うーん”と眉間にシワを寄せていた。
「なぁ、サンジ・・・これ、いつもと違う味がするぞ」
「んなわけねェだろ。いつも通りに作ったんだから」
リコッタチーズをたっぷりと使ったフワフワのオムレツだ。
ルフィはいつも、10人分はペロリと食べてしまう。
しかし、あまりにも怪訝そうな顔をしているので、サンジも皿から一口貰って食べてみた。
「マッズ!!」
ものすごく匂いがきついし、塩加減も間違えている。
お世辞にも美味いとはいえず、とても食べられたものではない。
どうやら、リコッタと間違えて、羊のロックフォールチーズを入れてしまったようだ。
見た目がまったく違うし、匂いも強烈なのに、なぜ気が付かなかったのか。