第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「じゃあね、サンジ。昨日は本当に素敵な夜だった」
そう言って、男と腕を組んでホテルに行こうとするクレイオ。
───ダメだ、行かせたくない!
娼婦の顔に戻った女の手を掴んだサンジはただ、その一心だった。
「ちょっと待て! なんで君はこんなことをしているんだ!」
その瞬間、一貫して笑顔を浮かべていたクレイオの表情が初めて変わる。
「・・・こんなこと?」
「いくら金のためだろうと、こんなクソ野郎に抱かれて、幸せなわけがねェ!」
“君はおれに抱かれても幸せになれなさそうだ。だから、抱くことはできねェ”
“金で君が幸せになれるなら、全財産かけても構わないさ”
“おれは本気で、どうすればクレイオちゃんを幸せにできるか考えている”
「もし事情があって娼婦なんかをやっているなら、おれに話してくれ! いくらでも力になる!」
「娼婦・・・なんか・・・?」
クレイオは男と組んでいた腕を解くと、サンジの傍に歩み寄った。
そして、はっきりと敵意を剥き出しにした目で見上げる。
「貴方・・・娼婦を、なんだと思っているの?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「快楽を売ることがそんなに悪いことなの? そんなに私は不幸な女に見えるの?」
「クレイオちゃん・・・」
「私は島の人にどんなに罵られようが、レストランから入店拒否をされようが構わない。だって、この仕事に誇りを持っているから!」
“ちょっと、うちの子に関わらないで!!”
“そうやっていつもヘラヘラ笑って男を誑かす・・・本当に薄気味悪い女だよ”
“申し訳ありませんが、そちらのお客様をご案内するわけには・・・”
どんな扱いを受けてもいつだってクレイオは微笑み、自分に対して嫌悪感を抱く人間達を許してきた。