第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「クレイオちゃん・・・これはいったい・・・?」
「サンジ! おはよう」
ショックで言葉を失っているサンジとは対象的に、クレイオはいつも通りの笑顔だった。
「どういうことだ・・・そいつは?」
「この人? 今日最初のお客さんよ」
すると一緒にいた男がサンジを睨みつけてきた。
腕っぷしに自信があるのか、見ず知らずの相手でもお構いなしにケンカを売るような男のようだ。
「おい、お前がクレイオを一晩中占領していたっていう野郎か。お前の時間は終わったんだ、さっさと失せろ」
耳元で凄まれるが、そんなことなどどうでも良かった。
今、サンジの目にはクレイオしか映っていない。
「娼婦の仕事はしないって・・・言っていたじゃないか」
「ええ、しなかったわ。貴方にあげた“一晩”だけ」
だけど、朝が来ればまた私は娼婦に戻る。
約束は破っていないはずよ。
クレイオのその言葉は、何一つ間違ってはいない。
それでもサンジは認めることができなかった。
「確かにそうだ・・・だが、おれは男に身体を売る君を見たくない」
「私の心配をしてくれるの? ありがとう、でも・・・」
男と腕を組み、ニコリと笑う。
「貴方との夜は終わった。今、私の時間はこの人のもの」
「じゃあおれがそいつよりも高い金を払う! それならいいだろ?」
「ええ、貴方がそうしたいなら。でも、その時間が終われば私はまた誰かに買われる」
「・・・ならその先もおれが君の時間を買う!」
「ずっとそれを続けていくことは無理でしょ、“大富豪”のコックさん」
クレイオは笑っているが、サンジの目には彼女が助けを求めているように見えた。
愛してもいない男に乱暴にされ、幸せな女などいるわけがない。