第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
フルコースを締めくくるのは、焼いたメレンゲでイチゴやラズベリーとアイスを挟んだ、バシュラン。
「おいしい! こんなデザートを食べたのは初めて」
「甘酸っぱい君の笑顔を想像して作ったんだ。気に入ってもらえたかい?」
「ええ。とても幸せよ」
たとえ、サンジとはこの一晩限りだとしても。
人生の中で、高級レストランで食事ができるとは思っていなかった。
誰かの手料理を食べられるとも思っていなかった。
「ごちそうさまでした」
全てを平らげたクレイオはとても幸せそうだった。
これこそサンジが願っていたもの。
「本当にありがとう、サンジ」
「礼を言うのはこっちだよ。クレイオちゃんに料理を振る舞うことができて良かった」
君にはずっとその笑顔でいて欲しい。
「それで・・・さっきの話に戻るけれど、君の仕事の」
「サンジ」
言葉を遮るようにクレイオがサンジの手を握った。
それ以上は言わないで、とばかりに微笑む。
「本当に素敵なディナーだった・・・お礼に、今日の夜は貴方にあげるわ」
「ちょっと待ってくれ、おれはそんなつもりで───」
サンジが慌てながら立ち上がると、クレイオは可笑しそうに笑った。
「ふふふ、勘違いしないで。娼婦の仕事はしない、ということよ。それが貴方の望みなんでしょ?」
「クレイオちゃん・・・!」
サンジ。
貴方はコックとして最高の技術を私に見せてくれた。
素敵な花束と夜をプレゼントしてくれた。
そのお礼として、貴方の希望を叶えてあげる。
「今日、私は誰とも寝ない」
ただの女として眠る。
それは娼婦の道を選んでから初めてのことだ。
「ありがとう、サンジ」
その笑顔に、クレイオはきっと幸せを感じてくれている。
サンジはそう確信していた。
翌朝、男の腕に抱かれている彼女の姿を見るまでは────