第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「本当に貴方は変な人ね。私が娼婦と知っていながら優しくしてくれるんだもの」
するとサンジは向かいの席に座り、置いてあったグラスからシャンパンを口に含んだ。
「娼婦だろうが、どこぞの国のお姫様だろうが関係ねェ。おれは全ての美女の味方なのさ」
「まあ、素敵」
「だから教えてくれねェか。どうして娼婦をやっているのか」
金が必要なのか。
それとも、いつだったかゾロが出会った娼婦のように、やむを得ない事情があるのか。
「おれは何があっても、君の味方だよ」
力になりたい。
こんな素敵な女性を、男達の欲望の捌け口にしていたくない。
「・・・・・・・・・・・・」
真剣なサンジの瞳を前に、完ぺきなミディアムレアの仔牛肉を口に運ぼうとしていたクレイオは、フォークとナイフを置いた。
「───人間って不思議よね」
レストランを見渡せば、楽しそうに食事をする人々。
「人間には三大欲があるというじゃない? 食欲と、睡眠欲と、性欲」
全てのテーブルに、美味しそうな料理が並んでいる。
「食欲を満たす場所にはこうして笑顔が溢れ、睡眠欲を満たす場所には安らぎがある」
でも、性欲は・・・?
「性欲を満たす場所はいつも暗く、太陽の届かない場所」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうして人は、性欲を否定しようとするの?」
その問いかけに、サンジはどう答えて良いのか分からなかった。
この2日間、絶えず押し寄せる性的興奮。
自慰で抑えるたび、罪悪感と自己嫌悪にさいなまれている。
そんなサンジにとって、クレイオの言葉は重く響いた。