第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「で、それを治す方法はあんのか?」
「原因が分からないから、治療法も見つかってねェんだ」
チョッパーがそういうなら、残念ながら本当なんだろう。
サンジはカルパッチョ用の魚をさばきながら小さくため息を吐いた。
「でも、なんでその病気のことを聞くんだ?」
「ちょっとそこでPSASって言葉を耳に挟んだから気になっただけだ。忘れてくれ」
「まさかサンジ・・・」
治療法が見つかっていないなら、チョッパーにも言わない方がいい。
治せないとなれば、医者であるこいつをいたずらに苦しめてしまうだけだ。
「おれ、実は昨日からずっと気になってたんだ。サンジの匂い・・・」
「何言ってんだよ、チョッパー」
「サンジ・・・おれ達でいう、“発情期”みたいな匂いがずっとしてんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
やはり、チョッパーの嗅覚には恐れ入る。
これに最高峰の医学の知識が備わっているのだから、この船医には何を隠しても無駄なのかもしれない。
サンジは戸棚の中から“とっておき”の金平糖を出すと、チョッパーの手にパラパラと落とした。
「ほれ、金平糖だ」
「なんだ、これ? 綺麗だな~」
「サヤエンドウの筋取り、手伝ってくれた礼だ。食ってみろ」
「甘っ! まるでわたあめみたいだな!」
チョッパーの意識はもう、金平糖の方に向いている。
良かった、なんとか誤魔化せそうだ。
「ルフィには内緒だぞ。海の上で食料が底をついた時用の非常食なのに、バレたら全部食われちまうからな」
「うん、わかった!」
噂をすれば、なんとやら。
チョッパーがコクンと頷いたその時だった。