第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「あ、サンジ!」
「よう、チョッパー。船番、ご苦労さん」
両手いっぱいに紙袋を抱えながら船に戻ると、芝生の上で寝っ転がっていたチョッパーが嬉しそうに顔を上げた。
「いっぱい買い物してきたんだな」
「ああ。今日は外で泊まってくるつもりなんだが、晩飯だけ作ろうと思ってな」
「何か手伝うことはあるか?」
「おいおい、お前までキッチンに入ったら誰が船番するんだ」
しかし、チョッパーは相当ヒマを持て余していたのか、お構いなしにサンジのあとをついてくる。
仕方なく、トナカイにもできるだろうとサヤエンドウの筋取りを頼んだ。
「そういや、チョッパー・・・PSASって知っているか?」
「PSAS?」
人間が絶えず発情する病気だ、もともと動物であるチョッパーは知らないかもしれない。
しばらく首を傾げていた船医だったが、何か思い当たる節があるのか、サンジを見上げ目をパチクリとさせる。
「もしかしてそれ・・・持続性性喚起症候群のことか・・・?」
「いや・・・そんな難しい言葉は分からねェが・・・」
「おれ、トナカイだから分からねェけど・・・その病気はつらいぞ」
「やっぱ・・・病気なのか?」
チョッパーはコクンと頷くと、鮮やかな緑色のサヤエンドウを見つめながら呟いた。
「長時間、性的欲求が常に起こる病気のことだよ。これの怖いところは、自分で抑制することができないから、身体的にも精神的にも発症患者を追いつめてしまう・・・誰にも言えないまま自殺してしまう例も少なくないって・・・」
「・・・原因はなんなんだ?」
「原因は明らかになってない。ただ、性の抑圧だったり、抗うつ剤の副作用という話もあるけれど・・・あと、男なら背骨の血管異常とか」
性の抑圧・・・
背骨の血管異常・・・
それが自分に当てはまるかどうかは、サンジには分からなかった。