第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
サンジ・・・
貴方がこれまで、どのような女性と出会ってきたかは知らない。
だけど、幸せになるに値しない、薄汚れた女もいるの。
「それでも貴方は、私を幸せにしたいと思うの?」
すると、サンジは胸ポケットから煙草を1本取り出し、口に咥えた。
使い慣れたライターで火をつけ、真っ直ぐな瞳をクレイオに向ける。
そして、一言。
「ああ、思う」
たとえ男を陥れるだけの淫魔だろうと、女性である以上、サンジにとっては幸せにしてやりたいと思う存在。
それは揺るぎないものだった。
「・・・・・・・・・・・・」
傍から見れば、サンジは心底バカな男なのかもしれない。
童貞を捨てる絶好の機会だというのに、自分の信念のため頑なにそれを拒否している。
そんな彼に、クレイオは諦めたように肩をすくめた。
「そう・・・じゃあ、商売にならないわね」
「クレイオちゃん?」
「“今は”私のお客になりそうにないということが分かった。邪魔をしてごめんなさい」
ここに入ってきた時と同じようにサンジの脇をするりと抜け、ドアノブに手をかける。
そして振り返ると、ニコリと微笑んだ。
「でも、一つだけ言わせて」
「?」
「貴方のそれ・・・“病気”よ」
クレイオの視線が、サンジの股間に向けられる。
「PSASって知っている?」
「ピ・・・ピーエスエーエス?」
聞きなれない言葉に戸惑っていると、クレイオはサンジに向かって真っ白な手を差し出した。
「このままだと貴方も・・・貴方の大事な人も傷つけることになる。そうなる前に、私を求めて」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「私なら絶え間なく湧き出るその性欲も、全て吸い取ることができる」
地獄に引きずり込もうとしている悪魔なのか、救いの手を差し伸べている天使なのか。
一つだけ分かることといえば・・・
彼女は太陽に憧れながら、闇の中に生きる娼婦ということ。
ただ、それだけだった。