第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「───離れてくれ」
そのままベッドに押し倒すのかと思いきや、両腕を突っ張ってクレイオを押しやる。
決して強い力ではないのに、はっきりとした拒絶がそこにあった。
「・・・どうして?」
頑ななサンジの態度に、クレイオの顔が初めて曇る。
この状況で拒むことができる男など、今まで出会ったこともなかった。
「私に魅力を感じない?」
「違う!! 君はすごく素敵だよ。だから・・・だからこそ、だ」
閉じられたドア。
閉められたカーテン。
ここにはサンジとクレイオしかいない。
太陽の光が届かないこの部屋で何をしようが、外にいる人間達には気づかれないだろう。
たとえ、サンジが自身に課した誓約を破ろうとも、娼婦さえ口を噤めば“無かった”ことにできる。
しかし、目の前の誘惑に抗えるほど平静を保っていられる状態ではないはずのサンジは、最後の理性を振り絞っていた。
「おれは、自分の欲望のために女は抱かねェ」
思いがけない言葉に、クレイオの瞳が大きく開く。
サンジは綺麗事で言っているわけではない。
その証拠に、顔を真っ赤にしながら自分と戦っている。
「・・・何を言っているの・・・? セックスや気持ちイイことが嫌いなの?」
「そういうわけじゃない。というより・・・一度もしたことがねェから、正直分からない」
「じゃあ、私がイイ事を教えてあげる」
クスリと笑いながら唇を撫でようとすると、サンジはクレイオの指先から逃げるように顔を背けた。
目の前にいる美女が自分を誘っている。
普段のサンジなら迷いなく飛びついていただろう。