第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
どうして彼女が自分を訪ねてきているのか、サンジは状況を飲み込めずにいた。
「クレイオ・・・ちゃん? えーと、どういうことかな?」
女性・・・美女なら特に、一度顔を見たら絶対に忘れない。
ドアを何度もノックしていたのは、間違いなくさっきホテルの前の路地ですれ違った女性だ。
しかし、どう見てもこのホテルの従業員には思えない。
「中に入れていただける?」
「え、そりゃいいが・・・」
断ることができないサンジの横をするりと抜け、クレイオは勝手知ったる部屋のように中に入った。
そして、まだドアの所で呆けたように突っ立っているサンジを振り返る。
「見かけない顔ね・・・旅の人?」
「まあ・・・そんなところだ。今朝、この島に着いた」
「そう。ようこそ、“常春の島”へ」
まるでダンスを踊るかのように両手を広げ、軽く会釈してみせるクレイオに、サンジはただただ息を飲むしかなかった。
いつもなら目をハートにして飛びつくところだが、彼女の持つ“空気”が異常に心臓を高鳴らせ、逆にそれが彼女に近づくことを躊躇わせた。
「貴方の名前は?」
「サンジ」
「サンジ・・・良い名前ね!」
花の蜜に誘われて飛ぶ蝶のように、サンジの視線はクレイオの一挙一動を追いかける。
この抗えない魅力は、どこから漂ってくるのだろうか。
「おれには君が必要って・・・いったいどういうことだい?」
サンジはこれ以上欲情が沸き上がらないよう、クレイオと距離を取りながら問いかけた。
すると目の前の女性は楽しそうに微笑み、真っ白な手を差し出してくる。
「私は娼婦よ。貴方、女を抱きたくて仕方がないって顔をしている」
それは今のサンジにとって、まさに悪魔の囁きだった。