第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
トントン。
突然、部屋のドアをノックする音が響く。
「・・・?」
これだけ古いホテルだ。
壁が薄くて隣の部屋の音がこちらに響いてしまっているのかもしれない。
予期せぬ音に、サンジは一瞬目をそちらに向けた。
しかし、返事をする必要はないと判断し、自慰をするために下着を下ろす。
するとドアの向こうにいる誰かが再び戸板を叩いた。
トントン。
もう一度響く、ノック音。
今度はよりはっきりと聞こえてくる。
「いったい誰だ?」
サンジがここにいることをルフィ達は知らないはずだ。
何か手違いでもあってホテルの従業員がやってきたのか?
麦わらの一味の一人と知って捕まえに来た海軍ということもあり得る。
今は自慰のことで頭がいっぱいなのに、邪魔をしないでほしい。
トントン。
ドアをノックしている人間は、こちらの都合などお構いなしのようだ。
返事をするまでノックし続けられても迷惑。
自慰の最中に入ってこられたら、もっと迷惑だ。
サンジはズボンを履き直すと、溜息をつきながら立ち上がった。
「さっきからうるせェな、ルームサービスは頼んで・・・」
さっさと追い払おうとドアを勢いよく開けたサンジの目に飛び込んできたのは、思いもよらない人物。
「こんにちわ」
フワリと甘い香りが鼻をくすぐり、言葉を失う。
「私はクレイオ」
ニコリと笑うその瞳は、まるで無垢な少女のようでいて───
「貴方には私が必要でしょう?」
紅い唇は神秘に満ち、その魅力に深入りすればするほど破滅に向かうような恐ろしさがあった。