第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「あの男が気に入ったのか、クレイオ?」
「誰の事?」
大通りに出る直前、組んでいた腕を解いた海兵は、クレイオの顎を掴んで上を向かせた。
「さっきすれ違った金髪の男を見ていただろう?」
「妬いているの?」
「当然だろう。おれといる時に、他の男に色目を使われたら気分のいいものではない」
「ごめんなさい。男の人を見るとつい・・・」
そう言って微笑んで見せるクレイオが気に入らなかったのだろう。
海兵は乱暴にその唇を奪うと、口内を掻きまわす。
この女は自分の所有物。
そう刻み込んでいるのだろうか。
「・・・人に見られてもいいの? 立場があるんでしょう?」
「ああ、そうだな」
海兵が娼婦を買っていると知られたらまずい。
名残惜しそうに唇を離すと、薄い布越しにクレイオの尻を撫でる。
「いいか、今夜もホテルに行くから待っていろ」
「うれしい。その“麦わらの一味”、簡単に捕まえられることを願っているわ」
そんなこと、露程も思っていない。
海軍が“麦わらの一味”を捕まえられようが、捕まえられまいが、クレイオにとってはどうでもいいことだった。
この島が海賊の脅威にさらされようが、それ以上の“脅威”があることを自分は知っている。
この世界を守る機関はどれも、海賊に目を向けてばかり。
本物の狂気はもっと別のところにあることを、彼らは知らない。
───さっきの金髪の男の人のように・・・
「また一人・・・お客を見つけた」
クレイオは愚かな海兵を見送ると、微笑みながら路地の向こうにある“闇”へと戻っていった。