第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
一緒に歩いている男は明らかに海兵。
それもかなりの階級だろう。
海賊であるサンジは反射的に顔を背けた。
だが、男の方はサンジを一瞥しただけで、気に留める様子もない。
しかし、女性はゆっくりとサンジに瞳を向けると、そのまま透明な眼差しで見つめてきた。
「・・・・・・・・・・・・」
視線が交わること、数秒。
それがまるで永遠のように感じられた。
抑えきれない欲求の絶頂にあるサンジを見て、いったい何を思ったのだろう。
艶やかな唇の両端を上げる。
「え・・・?」
彼女はすれ違い様、サンジに微笑みかけていた。
“この島で女と“イイ事”したけりゃ、クレイオの所に行きな”
“最高の娼婦だ。3分ありゃ3回は天国にイケるぜ”
サンジと娼婦はこの時、一切の言葉を交わしていない。
しかし、これまで出会ってきたどの女性にも感じたことのない、不思議な感覚を覚えた。
それはまるで恐怖にも似ていて・・・
こちらの心は見透かされているのに、相手の心の中は一切見ることができない。
本人はまだ知らない“見聞色の覇気”の素養があるサンジにとって、それは未知の感覚であり、“怖い”という気持ちにつながっているのかもしれない。