第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
そんな噂を知らないサンジが裏町に辿り着いたのは、正午を少し過ぎた頃。
「誰の目にもつかず、一晩を過ごせる所はねェか?」
島のことを聞くなら、堅気でなさそうな人間に聞くのが一番。
尋ねられた男は意味深にサンジの下半身に目をやりながら、真っ先に裏町のホテルを紹介した。
「そこに行けばラクになる。お兄さん、随分と溜まっているようだから」
「・・・・・・・・・」
今、自分がレディーには見せられない姿であることは自覚している。
意思に反して湧き上がり続ける性的欲求が治まるまで、一刻も早く自分をどこかに閉じ込めなければ。
「ハァ・・・ハァッ・・・」
ナミ達から離れた途端、気が緩んだのか、また症状がぶり返してきた。
なるべく周囲の女性に目がいかないよう俯きながらホテルを目指していた、その時。
「・・・!!」
フワリと、甘い花の香りが鼻をくすぐる。
顔を上げずにいられなかったのは、その香りがまるでサンジの頬を優しく撫でるように包みこんできたから。
───大丈夫、貴方は何も悪くない。
そう囁いているかのようだ。
次に目に飛び込んできたのは、キモノを身に纏った女性。
深緋色の地に、可愛らしい山茶花の柄が刺繍された民族衣装に袖を通すその姿は、とても艶やかだった。
「・・・ッ」
昔、何かの本でキモノの存在を知った時、シンプルでありながら、女性をここまで色っぽくさせる衣服があったのか・・・と衝撃を受けたのを覚えている。
暗い路地の向こうから男と腕を組みながら歩いてくる彼女は、まさにその時想像した通りの姿。
「・・・あ・・・」
それにしても、この香りはいったい何だろう。
嗅ぐだけで胸が高鳴り、どうしようもなく人肌を欲してしまう。
一歩、また一歩と近づいてくるその女性に、サンジはいつしか目が離せなくなっていた。