第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「ねぇ・・・今、この島に来ている海賊って?」
「エニエス・ロビー事件に関わった“麦わらの一味”だ」
「麦わらの一味・・・?」
それを質問したのは、ただの気まぐれだ。
長く海の上で過ごした海賊は、島に着いたらまず女を欲しがる。
「なら、今夜は海賊の相手で忙しくなりそうね」
そう言ったクレイオに、「正義」の羽織を肩にかけた客は可笑しそうに笑った。
「海賊なんぞに指一本触れさせるか。お前を買う暇など与えずに我々が捕まえる」
「あら、頼もしい」
「お前はおれの女だからな」
「そう言ってくれる人はたくさんいるわ」
その時、一番多くお金を払ってくれた人が私の恋人。
クレイオが笑うと、客はそれが気に入らなかったのか、さらに数枚の札を頬に押し付けてきた。
「ならば、おれが常にそれを上回る金を払おう」
「そう・・・なら、今夜も私の恋人は貴方ということになる」
あまり寂しい思いをさせないでね、と囁けば、客は満足そうに笑いながら唇にキスをしてくる。
ああ、本当に安い疑似恋愛。
クレイオは“恋人”と舌を絡ませ合いながら、冷たい瞳でカーテンを見つめた。
太陽の下では絶対に許されない、穢れた関係。
こうして男達の欲望に付き合うことが、自分の選んだ生き方だ。
「・・・もっと私を“愛して”」
この時まだ彼女は知らなかった。
島を訪れた海賊の一人によって、この部屋に太陽の光が差し込むようになることを。
そして、本物の“愛”を知ることになることを───