第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「ハァ・・・ッ・・・」
いつも通り・・・だっただろうか?
ナミさんやロビンちゃんに気付かれていないだろうか?
サンジは、アクアリウムバーを出た瞬間、右手で胸を抑えた。
ドクン・・・ドクン・・・と心臓が嫌なリズムで鼓動している。
まるで全身の血液を下半身の一点へと送っているようだ。
───早くレディー達から離れなくては。
せっかく平静を装うことができたんだ。
彼女達に余計な心配をかけたくないし、そもそも今この身に起きている異変に気付かれたくない。
サンジは煙草を吸おうとジャケットの内ポケットをまさぐったが、無意識に胸の突起を弾いてしまい、思わず声を上げてしまいそうになった。
「クソッ・・・」
サンジは、自分を世界一の女好きと自負している。
たとえ敵だろうが、相手が美女ならば鼻の下を伸ばすし、常に女湯を覗く方法を考えている。
それほど女にだらしがないサンジだが、一つだけ誰にも真似ができないほど“硬派”な部分があった。
「勃起してるのがナミさん達にバレなくて良かった・・・」
サンジは決して女性を自身の性欲を慰めるための“材料”とはしない。
彼にとって女性は神聖なもの。
犯すことなどもってのほか、たとえ想像であっても自分の性欲を満たすために淫らな姿にさせることは、サンジの中の“騎士道”が許さなかった。
しかし、そこは健康な19歳。
物理的に射精をしなければいけない。
知らぬうちに夢精していれば良いが、そうでなければこの狭い船の中、その機会は風呂に入っている時か、便所ぐらいしかない。
その時はただ絞り出すように、何も考えないようにしながらマスターベーションで処理していた。
彼にとって女性とは、それだけ穢したくない存在だった。