第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「私達、サンジくんのことをよく知っているつもりだけど、本当は知らないこともたくさんあるのかもしれない」
眉根を寄せながら呟くナミに、ロビンはクスクスと笑いながら読んでいた本を閉じ、膝の上に置いた。
「優しいのね。でも、たとえそうだとしても、サンジは私達を心の拠り所にしているんじゃないかしら」
心を許していなくても。
心に触れて欲しくなくても。
サンジの心の拠り所は、間違いなくこの海賊団。
「少し前までの私がそうだったから───」
ルフィ達を守るためなら、世界が滅んでもいいと思った。
捨てたはずの命も、失った心も、途絶えた夢も。
彼らは何度も何度も、掬いあげてくれた。
そして言ってくれた。
ロビンを救うためなら、世界を敵に回してもいい、と。
「貴方達ひとりひとりが、それだけの存在よ」
だからきっと大丈夫、と美しい考古学者が微笑んだ時だった。
「ナミさん、アイスティーをお持ちしました!」
いつもと変わらない、ピンク色の声がアクアリウムバーに飛び込んでくる。
見れば、銀色のトレイにグラスを乗せたコックが、ハートを飛ばしながらやってきた。
「ロビンちゃんも、紅茶はいかが?」
「ありがとう、頂くわ」
ナミの心配を吹き飛ばすほど、サンジは“相変わらず”だった。
鼻の下を伸ばしながら、ナミに冷えたアイスティー、ロビンに良い香りの紅茶を差し出す。
「おれはもう寝るけれど、他にも何かあったら叩き起こしていいからね!」
「もう大丈夫。おやすみ、サンジくん」
「おやすみ、ナミさん、ロビンちゃん」
投げキッスをしながら出ていくサンジは、本当にいつものサンジだ。
ロビンの言う通り、心配は無用なのかもしれない。
───次の島に着いたら、休めるように少し長めに滞在しようかしら。
ナミはそう思いながら、愛情がたっぷり込められたアイスティーを啜った。