第1章 始まりと終わりの町(シャンクス)
初めて唇を重ねたのはいつだったか。
初めて体を重ねたのはいつだったか。
あの頃の記憶を辿ろうにも曖昧で、ただクレイオという女性の心と体に、自分の存在を刻みたいという欲求があったことだけを覚えている。
「随分と性急じゃない?」
クレイオはクスクスと笑いながら、耳の下にキスを落としてくるシャンクスの赤い髪を梳いた。
「そりゃおれの性分じゃねェが・・・変わらないお前を見ると、どうやらおれも10代のガキに戻っちまうようだな」
クレイオの素肌に石鹸を滑らせ、泡をたてるように指先で円を描きながら撫でる。
最初は乳房の外縁、少しずつ少しずつ中心に向かって。
それは若い女の肌だからか、それとも泡がそうさせているのか。
指先の感触が心地よい。
「シャンクス」
クレイオがシャンクスの首に両腕を回した。
風呂からのぼる湯気で二人の視界がぼやけたが、むしろ現実世界から切り離された夢の中にいるような錯覚を覚える。
一度唇を重ねれば、その瞬間に歯止めは聞かなくなり、言葉を交わすことなく求め合う。
「ロジャーが死んだ日のことは、昨日のことのように感じるのに・・・」
シャンクスの逞しい体が、クレイオの白い体に重なった。
「シャンクスと最後に会った日から今日までは、気が遠くなるほど長く感じた」
「ああ・・・ごめんな」
クレイオを一人この町に残して、自分たちは心の赴くままに世界中を旅している。
明日またこの町を出航したら、今度は二度と帰ってくることができないかもしれない。
「謝らないで。私は慣れているから」
一つの物語が終われば、別の物語が始まるだけ。
「でも、どうか願わくば・・・」
これが唇を重ねる最後にはなりませんように。
これが体を重ねる最後にはなりませんように。
どのような結末であれ、この物語の終わりは悲しいだけから───