第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
巨大な水槽に囲まれたアクアリウムバーは、夜になると深海の中を漂うような幻想的な空間に変わる。
光るクラゲに時折目を向けながら読書をしていたロビンは、ナミが難しい表情で入ってきたことに気が付き、分厚い歴史書から顔を上げた。
「どうしたの、ナミ?」
「あ、ロビン」
ナミはロビンの隣に座ると、昼間ルフィ達が釣った魚を見上げながらため息を吐く。
「なんか、サンジくんの様子がおかしくて」
「サンジが?」
彼の様子がおかしいのはいつものことじゃない? とロビンは微笑みながら首を傾げた。
でも、ナミの表情を見るに、それがいつものコックの“挙動不審”とは違うことを悟る。
「さっき、アイスティーを貰いにいったんだけど、なんか私を避けているようなのよ」
「あら、珍しいわね」
「顔色も悪かったし、熱でもあるのかしら」
「だったら、チョッパーに相談してみたらいかが?」
「・・・・・・・・・」
確かに、“司法の島”エニエス・ロビーでは世界政府と戦い、誰もが大怪我を負った。
ロビンだっていまだに顔にアザが残っている。
いくらルフィ達は頑丈だといっても、これだけ無理が続けば体調を崩しても仕方がない。
「ほら・・・サンジくんって普段はあんなだけど、妙に“頑な”なところがあるでしょ」
左目を決して見せなかったり、“生まれ故郷”の話になるとさりげなく話題を逸らそうとするサンジ。
仲間に心を許す、許さないの問題ではなく、まるで心の中に触れて欲しくない部分があるようだ。