第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「本当に何でもないんだ。皿を割って気が動転していたのかもな」
「サンジくん・・・」
チョッパーならまだしも、ナミはこんな言い訳が通用する相手ではない。
同時に、アホな男共と違って察しが良い人だ。
ナミは、自分と目を合わせようとしないサンジをしばらく見つめていたが、肩をすくめてため息を吐いた。
「そう、ならいいわ」
「・・・ごめんね」
「なによそれ。サンジくんが謝らなければいけないことなんて、何一つないじゃない」
あんたが何かを“隠して”いない限りは───
「ますます惚れ直したよ、ナミさん」
「あー、はいはい。じゃ、美味しいアイスティーよろしくね」
「喜んで!」
ニコリと微笑んでみせるも、その笑顔はぎこちない。
そのことに気が付かないフリをして、ナミはキッチンから出て行った。
「クソ・・・」
心臓の鼓動がいつもより強い。
ナミとロビン専用の選び抜かれた紅茶の葉も、今はその香りを感じることができなかった。
「危なかった・・・」
もう少しでナミを“傷つける”ところだった。
「早くどっかの島に着いてもらわねェと・・・」
いや・・・とにかく、ナミやロビンとはなるべく距離を置いておかなければいけない。
ピーッ
湯が沸いたことを知らせるヤカンの笛が鳴っても、サンジはシンクに両手をつき、項垂れていた。