第1章 始まりと終わりの町(シャンクス)
「この左腕と麦わら帽子は、これからあいつが築く時代に懸けてきた」
その瞬間、シャンクスが無意識に放った覇気で風呂場の鏡に亀裂が入った。
左肩から数センチを残して千切れた腕は、その子どものために失った。
そして、大事な大事な麦わら帽子も───
“覇気”に無防備な人間だったらおそらく、刺すような圧迫感が漂うこの風呂場から逃げ出していただろう。
シャンクスがこの覇気を纏うのは決まって、これ以上ないほど高揚している時。
自分でも抑えられないほどの興奮を覚えているのだ。
クレイオは微笑み、シャンクスの傷口にそっと手を這わせる。
その感触が心地良かったのか、赤髪はクレイオに寄りかかって天井を見上げた。
「ロジャー船長は・・・自分が不治の病にかかったと知ってから、お前を探すようになった」
「・・・・・・・・・・・・」
「あの時、船長はこう言ったんだ。自分は万物の声を聞くことができる。そして、この世界のどこかに隠れている女は、万物の声を“残す”ことができる、と」
そしてクレイオの目の前に現れた、一つの海賊団。
「おれは、それがどんな女なのかずっと楽しみだった。そして初めてお前を見た時、船長の言っていることが本当だと思ったよ。だって、お前───」
世界の絶望の全てを知っているような瞳をしていた。
あまりにも多くの死に向き合わざるを得ない女性。
彼女を見た瞬間、少年シャンクスの心は一瞬にして囚われた。