第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「お前、そろそろ嫁さんを貰えよ」
「・・・!」
それはあまりに唐突な提案すぎて、さすがのミホークもワインを吹き出しそうになる。
だが、ゾロはいたって本気のようだ。
「クレイオのお袋のことを忘れろとか、そういう事を言っているんじゃねェぞ。物事には“頃合い”っつーもんがあると思うだけだ」
「・・・・・・・・・・・・」
余計なお世話だ、と言ってやりたいのに、言葉が出てこない。
それはきっと、ゾロに言われなくても自分が一番よく分かっているからなのかもしれない。
「海賊が嫁を取るなど、笑い話にもならん」
「そうでもねェと思うけどな」
ゾロはむやみやたらとこういう話題を振る人間ではない。
一つの“確信”があるからこそ、こうしてミホークに話している。
「少なくとも、ペローナはまんざらでもねェはずだ」
ペローナには別にシッケアール国に居なければならない理由は無かった。
それでも二年間もここに居たのには、彼女なりに理由があるのだろう。
「ゴースト娘がここに戻ってくるとは思えん」
無事にスリラーバーグへたどり着き、もしそこでモリアが生きていたら。
ペローナは育ての親と生きることを選ぶかもしれない。
「まァ、そいつはペローナが決めることだけどよ」
ゾロは肩をすくめると、ミホークに向かって口の端を上げた。
「もしあいつがクライガナ島に戻ってきたら、その時は好きにさせてやれよ」
「別に追い出す理由はない」
ペローナはクレイオの母とまったく違うタイプの女だ。
でも、それがミホークの凍り付いた心を溶かすかもしれない。
「ま、おれが言いてェのはそんだけだ。今まで本当にありがとな、ミホーク」
「ああ」
握手を交わすわけでもなければ、再会の約束を交わすわけでもない。
ロロノア・ゾロとジュラキュール・ミホーク。
いつかは敵として相まみえる日が来るかもしれない。
否、その日が来なければ弟子の夢が叶うことはない。
それでも師弟は今、互いの光指す未来を願っていた。