第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「おい、ペローナ! もう他に荷物はねェか?!」
最後の一つを積み終え、ゾロが港に降りて辺りを見回していると、後ろからブーツの足音が聞こえてきた。
その主が誰だかは、振り返らなくても分かる。
ゾロは刀の一本に手をかけながら、ほんのわずか緊張を高めた。
「準備は整ったようだな」
「・・・ミホーク」
ワインを片手に見送りに来た大剣豪は、旅立とうとしている愛弟子を見据えて片方の口の端を上げた。
「武運を祈る・・・とだけ言っておこう」
「ハハ、らしくねェな」
この二年を思い返せば、この師匠に死の淵まで追いやられたのは一度や二度じゃない。
それでも、どれもいい思い出となっていた。
「恩に着るよ、ミホーク」
「らしくないな」
ミホークは鷹のような瞳を細めると、ペローナと話しているクレイオを見つめた。
「一年前の約束は忘れるな」
「約束?」
「娘を不幸にしたら、この海のどこにいようともおれが貴様を殺す」
今はまだミホークの手の中にある、“世界一の大剣豪”の称号。
できることなら、それを譲る相手が目の前にいる弟子であって欲しいと思う。
「おれはお前の剣を見るのが嫌いじゃねェけどな」
ゾロは微笑み、ミホークと同じようにクレイオの方へ目を向けた。
「次にお前とおれが剣を交える時が来るとしたら、それは“世代交代”を懸ける時だ」
クレイオ。
お前の親父はおれの目標であり、一番の敵でもある。
この男を越えなければ、おれの夢は叶わない。
「そんで、おれが必ずお前から“世界一の大剣豪”の称号を剥ぎ取ってやる」
その時まであと少し。
腕を上げる必要がある。
でも今度はこの島ではなく、ルフィ達と新世界を旅しながらだ。
「そうか・・・ならば、それを楽しみにしていよう」
「ああ、クレイオのことは心配すんな。あいつを守るのはあんたじゃなく、おれの役目だ」
「減らず口をよく叩けるものだ」
「じゃあ、減らず口ついでに、もう一個言っていいか?」
ゾロはニヤリと笑うと、すました顔でワインを口に運んでいるミホークの方に視線を移した。