第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
切なそうに瞳を揺らすゾロの首に、クレイオの両腕が回る。
「・・・私が貴方に対して言うことは、ただ一つ」
そして濡れた唇が語ったのは、母が死の間際に愛する人へ残した言葉だった。
「ロロノア・ゾロ、私は貴方を赦します」
“人の罪を赦すことができた時、貴方の心は愛で満たされているのです”
漠然と心に刻んだ母の教え。
でも、今ならその言葉の意味が分かる。
「愛してる・・・ゾロ・・・」
どんなに約束を交わしても、この海で海賊として生きるなら、明日も命が続く保証はない。
海軍に捕まるかもしれないし、他の海賊に殺されるかもしれない。
だから・・・生きているうちに伝えなければならない。
「絶対に叶えてきて・・・貴方の夢も、仲間の夢も」
私は世界から忘れ去られたゴミ溜めのような島で、孤児達の未来を守りながら待っている。
“麦わら海賊団”の名が、海の王者として語られる日を。
「私の“子ども達”が、貴方の名前を誇りとして語ることができるように」
どんなに地獄のような場所でも、子ども達がいつか幸せな道を歩めるように育ててみせる。
その凛とした表情はきっと、ミホークとの子を一人で育てると決心した母親も浮かべていたに違いない。
ミホークとゾロが強く愛した二人のクレイオは、紛れもなく慈愛に満ちた聖母だった。
「待ってろ、クレイオ。必ずお前とガキ達の所に持っていく」
“海賊王”モンキー・D・ルフィの海賊旗を───
ここは“偉大なる航路”クライガナ島、シッケアール王国跡地。
滅びた国に未だそびえる古城で交わされた一つの約束が、誰かに知られることはない。
しかしそれが果たされた時、世界一の大剣豪は愛する女の中に残すことになるだろう。
“ひとつなぎの物語”の次章を紡ぐ、新しい命を。
「愛してる、クレイオ」
その日が来るまでは別々の道を歩む二人。
旅立ちまでの僅かな時間を惜しむように、身体を重ね合わせていた。