第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「ガキ共の世話は大変なんだろうな」
そう言って微笑むゾロ。
一年前、孤児達を育てると言って、母親が生まれた劣悪な島に戻って行ったクレイオ。
その言葉通り、100人近くいる孤児の“母”として世話をし、海賊や強盗に荒らされないよう、シャンクスから学んだ剣で教会と子ども達を守っている。
いつしか人はそんなクレイオのことを、世界一の大剣豪を彷彿させるとして“鷹の目の聖母”と呼ぶようになっていた。
おかげで、これまで一カ月もたずに逃げ出す者ばかりだった世界政府派遣の神父も、一度も変わらずにその任務を全うしている。
昨日、ミホーク達との夕食の場では、“今度は教師も来て下さることになっているの”と頬をバラ色に染めながら語っていた。
「お前、腕もかなり上げたろ」
「分かる? 鍛錬は欠かしていないし、シャンクスも覇気が強くなったって言ってくれた」
「そうか」
何でもないことのように笑って言うが、その努力は計り知れない。
子ども達の世話をして、教会の手伝いをして、それ以外に時間を見つけることなど難しいだろう。
きっと寝る間も惜しんでいるに違いない。
それは、削ぎ落された脂肪と、筋張った硬い筋肉の身体が十分に物語っている。
「───傷もすげェな」
「・・・・・・・・・」
胸、肩、上腕、脇腹、太もも・・・
至るところに痛々しく残る裂傷痕。
拙い縫合のせいで皮膚が変色してしまったところもある。
「ごめん・・・冷静に見たらこんな身体、萎えるよね」
「あ? んなこと、言ってねェよ」
ゾロは眉根を寄せると、身体をシーツで隠そうとしたクレイオの手を止める。
「どれも身体の前にしかねェ傷・・・剣士の証だ」
ゾロはむしろ興奮しているように見えた。
狼が仲間の傷を舐めて癒すように、白い肌の傷痕一つ一つに舌を這わせていく。
「むしろ、おれには綺麗に見える」
敵に背中を向けては、何かを守ることなどできない。
ゾロからすればこんな小さな身体一つで、暴力から子どもを守ろうとしているクレイオが愛しくてたまらなかった。