第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
海に出てから今日まで、おれはどれだけのものを捨てててきただろう。
命。
刀。
プライド。
強くなるため、敵を倒すため、仲間を守るため。
大事なものを懸けては敗北を知り、己の未熟さを知った。
“全員!!! 逃げる事だけ考えろ!!! 今のおれ達じゃあ、こいつらには勝てねェ!!!”
シャボンディ諸島で初めて、敵を前にして逃げることを選択したルフィ。
あの時すでに意識が遠のきかけていたが、船長の悲痛な声を二度と忘れることはないだろう。
バーソロミュー・くまから逃げきれないことは分かっていた。
だからスリラーバーグの時のように自分が残って、仲間だけは逃がそうとした。
でも、そう考えることすら“おごり”だった。
自分は弱い。
この海には自分よりも強い人間がゴマンといる。
でもそれじゃダメなんだ。
“おれに剣を教えてくれ!!!”
もう二度と船長に“逃げろ”と言わせない。
もう二度と仲間におれを守らせたりはしない。
船長が真っ直ぐ前だけを見ていられるよう、あいつらの背中を守るのはおれの仕事だ。
“どうやら野心に勝るものを見つけた様だな”
野心に勝るもの・・・
命を捨ててもいいと、
刀を捨ててもいいと、
恥を捨ててもいいと、
そう思えるほど大事なもののために、この二年間修業をしてきた。
「ああ、ゾロ・・・!!」
弓なりになって果てた身体は、一年前に抱いた時よりも骨ばっていた。
それだけ彼女が苦労している証だと思うと、怒りにも似た感情が込み上げてくる。
おれがそばにいれば、こんなにやつれさせはしないのに。
でもそれができないことは、お互いに百も承知。
「い、痛いっ・・・!」
無意識に皮膚に爪を立ててしまっていたらしく、クレイオが小さな悲鳴を上げた。
「悪ィ」
久しぶりに肌を重ねられたのに、どうしても優しくすることができない。
放熱した直後に、身体の中心からまた熱が込み上げてくる。
それもそのはずだ。
飢えた狼の前に兎を差し出せば、どうなるかは明白だろう。