第9章 ロザリオの祈り(ゾロ+α)
「おれはミホークのように、誰かと新しい命を残すことはできないかもしれない」
シャンクスが愛した人は、どんなに身体を重ねても命を宿すことはない。
彼女は“永遠”という時間を与えられた代わりに、一人で生きていくことが定められている。
彼女以外の女性を愛することができないシャンクスに残された道は、ただ一つ。
「それでも、世界から取り残された不幸なやつのためにも、おれは時代をつなげていきたい」
時代の“繋ぎ手”となること。
「だから、おれはおれのためにお前を助けたんだよ」
ポンポンとクレイオの頭を撫でる、シャンクスの右手。
失われた左腕はすでに“新しい時代”に懸けている。
「ゾロかもしれねェし、お前がこれから出会う男かもしれない。誰でもいい、お前が“コイツだ”と思う男と一緒に、命を残して欲しい」
大海賊時代を残したゴールド・ロジャーのために。
そして、“始まりと終わりの町”に残してきた女のために。
おれは海賊としての命を懸けて、次の世代へ時代を繋げていきたいと思う。
「おれの仕事は、ルフィやゾロ、クレイオ達がこの先紡いでいく様々な物語を、一本の糸でつなげていくことだ」
だからお前達は迷わず、自分の思った通りに生きていけばいい。
「そうやって永遠に見せてやりたいんだ・・・“ひとつなぎの物語”を───」
シャンクスは遥かな空の向こうにいる女性を想い、目を閉じた。
命を残すことはできないかもしれない。
しかしそこには、一人の女性への揺るぎない愛情があった。
「恵み溢れる聖母様・・・」
終わりのない恋を秘めたシャンクスを前に、クレイオの口からは自然と祈りの言葉が漏れていた。
「罪深い私達のために、今も、死を迎える時もお祈りください」
どうかこの人にいつか、愛する人と結ばれる日が訪れますように。
「聖母様・・・どうか私達をお守りください」
青い空に溶けていく、ロザリオの祈り。
それの願いが聞き届けられたのだろうか・・・
雲の切れ間から差し込む、天使がハシゴを下ろしたかのような幾筋もの光が、レッド・フォース号の進路をキラキラと輝かせていた。