第3章 一つの決着
「お前が風丸を選ぶのなら、この場はそれを受け止めよう。だが、俺の気持ちは俺の物だ。このままにお前を風丸に奪われるのは耐えられない。……いつか振り向かせる、お前が選ぶべきは俺だったと理解させてやる」
「鬼道さん……」
花織が潤む瞳で鬼道を見上げて彼の名を呼ぶ。数か月前までは、この人を誰よりも愛していた。今だって嫌いになったわけではない……、ただ風丸が好きなだけだ。だからこそ、鬼道の言葉に答えられないことに花織は切なさを覚える。だが、これ以上答えを先延ばしにすることもきっと彼も自分も苦しめ続けるだろう。これ以上待たせるわけにはいかない、あれほどの友人が後押しをしてくれて。
「だから、このままの友人関係を許してくれ。たとえ友人同士であったとしてもお前の傍にいたい……、特別な立場になくてもお前を守れるところに居たい。……もちろん、お前と風丸の邪魔をしたりはしない」
「そんなの……、鬼道さんは優しすぎますよ……」
鬼道の想いに花織は静かに涙を零した。花織は何も失うものはないということになる、彼の提案を呑むのならば。でもそれは鬼道がそれだけ苦しむということだ。もしも、花織と風丸がよりをもどせば、彼はそれを間近で見ることになるのだろう。普通だったらこの選択をする者はいないはずだ、傷つくのは自分だけなのだから。
「構わない。俺がお前の傍にいたいだけだ。……花織、頼みがある。今だけでいいんだ、名前で呼んでくれないか」
「……名前?」
以前の出来事を思い出す。帝国が世宇子に負けた時のことだ。あの時も彼は自分を名で呼ぶことを花織に強要した。きっと彼にとって名前というのは特別なものなのだろう。鬼道は頷き、花織に促す。花織の瞳から零れる涙を拭い、花織へ気丈にも微笑みかけた。
そんな顔をしないでほしい。花織は自分の為に笑って見せる鬼道を見ながらそう思う。だが、彼の言葉を叶える為に自身も優しく、涙を流しつつも優しく鬼道へ微笑みかけた。
「ありがとう……。有人……、さん」
これが一年越しの恋の、すべてを振り回してきた恋の決着であった。