第12章 心の均衡
「……ああ悪いな、円堂。花織も疲れてるみたいなんだ」
「そっかー。月島、最近頑張ってるみたいだもんな。秋が言ってたぜ、練習に参加する為に早起きして料理とか洗濯とかしてくれてるって」
「ああ。……そうみたいだな」
風丸が花織の手に自分の手を添えながら円堂の言葉を肯定した。静かに眠っている花織の顔を見つめる。
花織に対しても風丸は思い悩んでいることがあった。一つは今、円堂が言うように花織が無茶苦茶な特訓をしているらしいことだ。花織が深夜に特訓をしていることを今まで確信は持てなかったが、今花織が眠っているのを見て確信した。彼女はチームの為に必死で努力をしている。選手ではなく、マネージャーという身分にも関わらず。そしてその努力での疲労を一切見せないで風丸に対して、いつも労いの言葉を掛ける。風丸だけに応援を投げかけてくれる。
だからこの頃、自分を応援してくれる花織の笑顔に結果で答えられない自分が益々情けなかった。円堂に似た眩しさを持っているように思えてしまう自分の恋人。彼女の気持ちに答えられないことで彼女がどんどん自分から離れて行ってしまうようで怖くなる。
そう思う理由はもう一つあった。先日の吹雪と密会している姿を見てからだ。あれから花織が吹雪と話している様子はないが、随分と吹雪を気に掛けているようだった。自分より速い、吹雪のことを。それがいったい何を意味しているのかは分からない。もちろん花織を信じているが、もしかしてという気持ちも拭えない。すべてがネガティブに思えて仕方がないのだ。
「花織の為にもっと強くならないと……」
ぼそりと風丸が呟く。ぎゅっと花織の手を握り締めた。花織が自分から離れていかない様に、誰にも奪われてしまわない様に。花織にとって誰よりも速い人間で居られるように。そんな切実な思いを抱きながら。
「……風丸」
そんな風丸の呟きを円堂は確かに聞いていた。ただ彼は風丸の底意を汲み取れたわけではなく、上辺の言葉だけを真実だと思い込んでいた。