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嫉恋

第9章 精神の崩落




「花織……」

求めるように花織の名を呼び、再び唇を寄せる。花織はされるがままだった。この妙な空気に、ふたりは完全に自分たちがどこにいるのか、現在どういう状況だったのかということを失念していた。

「おっ、いたいた!風丸、花織ちゃんが探してたぞ……って」

遠目に風丸の青い髪が見えたのだろう。花織が先ほど風丸を探していた時に声を掛けた土門と一之瀬が、キャラバンの陰を覗き込んで表情を固まらせた。またか外で、人目に付くであろう場所でこんな熱烈な行為をしているとは思わなかった。恐らくキャラバンに背を押し付けられた花織の姿は彼らからは見えなかったのだ。

一之瀬と土門の登場にふたりは慌てて口づけは止めたものの、風丸は力の抜けた花織を支えていなければならなかったから、抱き合ったまま離れることはできなかった。そんなふたりを見て苦笑いをしながら一之瀬が頭を掻く。

「あー……、御取込み中にお邪魔してごめん」
「……っ」

花織が恥ずかしさに顔を真っ赤にして風丸の胸に顔を埋める。一之瀬と土門は何とも言えない表情をして沈黙が気まずかったためか、ふたりに言葉を掛けた。彼らも思いにもよらない出来事に困惑しているようだ。

「相変わらずお熱いのはいいけど……、もうちょい人目を気にしてくれな?」
「とにかく花織、風丸が見つかったのならよかったよ。俺たちはもうそろそろ帰るから。……ごゆっくり?」

そう言って彼らはそそくさと帰って行った。残されたふたりはまだそこから動くことができなかった。花織は恥ずかしさに風丸の胸から顔を上げることができなかったし、風丸は妙な感覚が彼の中にこみ上げるのを感じていた。

花織は自分のものであると知らしめられた優越感。花織と距離の近い彼らに今の一連を見られてしまったことに気恥ずかしさも勿論あるが、今はそれが勝っていた。

スピードも花織も自分の手中に収めていたいと思った。たとえどんな手を使ったとしても。

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