第5章 心の駆け引き
花織は彼の背を叩いて彼の顔を上げさせる。風丸が花織から少し離れたと同時に花織は彼の頬を両手で包む、そうすると二人の瞳はかち合った。花織は真っ直ぐに風丸だけを見据えている、そんな彼女にどきりとしたのか風丸は少し動揺して視線を泳がせた。
花織はそっと目を伏せて風丸の顔に自らの顔を寄せた。自らの唇を彼のものに押し付ける。それは一瞬だったが、永遠のようにも感じられた。
ん、と少し風丸が声を漏らした。どうやら驚いたらしい。彼女の躊躇いの無い行為に風丸は唖然とする。数秒の間をおいて彼は状況を察すると、顔を真っ赤にした。
「え、あ……花織?」
「証明になるかは分からないけど……、これでいいかな」
花織はそういって風丸に笑って見せる。花織の言葉に彼は、その行為が彼自身が出したの先ほどの意地悪で自己中心的な問いかけの答えだと悟る。
「こんな、じゃないよ。……私、一郎太くんだから好きになったの。……遅くなってごめんね。でもやっと胸を張って答えられる、一郎太くんが誰よりも好きなんだって」
優しい花織の言葉に風丸は胸が高鳴るのを感じた。花織が愛おしくて思わず、笑みが漏れる。自分を見ようとしてくれる花織を見ていると満たされるような気分になった。何よりも”いつかは俺を見てほしい”と数カ月前に告げた願いを花織が叶えてくれたことが幸せだった。
「ありがとう、花織」
胸がいっぱいになって風丸は花織を再び抱き寄せる。先ほどまでは酷く寒かったはずなのに、少しも寒さを感じなくなっていた。月明かりがふたりを包み込む。月光も互いの体温も優しくお互いを包み込んでいた。