第5章 心の駆け引き
「吹雪は妙に花織を気にかけてると思うぞ。早く自分に正直にならないと、花織をアイツに掻っ攫われるんじゃないか」
「俺もその言葉をお前に返すよ。……お前こそどうなんだ、花織が他の男と一緒に居て平気なのか?」
鬼道の達観した言葉が癇に障って風丸は鬼道を睨みながら吐き捨てる。鬼道は肩を竦め、眉根を寄せながら呟くように言った。
「平気ではない、だが俺にはどうしようもないだろう?ほんの先日前、アイツに振られたばかりなんだ」
「は?」
予想だにしなかった言葉に風丸は思わず問い返した。目を大きく見開き、鬼道を凝視している。鬼道は風丸の驚きようを可笑しそうに見ながら言葉を続ける。その口調は毅然としたものだったが、風丸にはどこか切なさが滲んでいる様に、そんなふうに思えた。
「豪炎寺がキャラバンを降りたすぐ後だ。花織自身に俺の気持ちには答えられないと言われた。誰かさんが好きだから、とはっきり宣告されたな」
「……」
「それでもせめて友人として傍にいさせてくれと頼んだんだ。その選択がどれだけ俺を苦しめようと、ただアイツを眺めることしかできないよりはマシだと踏んだ」
風丸は唐突な鬼道の告白に呆気に取られていた。いつの間に決着がついていたんだ、上辺には微塵もそれを出さないで。きっと2人の関係の終結が欠片も表に出ないのは鬼道の精神力が強いからだろうが、よくそれほど平然としていられるものだと思う。でも理由はよくわかった。
それだけ本気で鬼道は花織の幸せを願っているのだ。きっと花織を振った時の風丸と同じだ。あの時の風丸も怖い位穏やかで落ち着いていた。きっと今の鬼道の状態はその時の風丸に近いのだ。
「風丸」
「なんだ?」
鬼道の複雑であろう思いに思案しながら風丸が返答をすると、鬼道は渋い顔をして風丸を見る。その表情からよくわかる、鬼道がまだ花織をあきらめたわけではないことが。
「もしも花織を泣かせる様な事をしてみろ。すぐに俺がアイツを奪い返す」
それはエールのようで、敗北宣言のようで、それでも宣戦布告であった。