第1章 甘い野獣(銀時甘裏)
待合室で私は、ソファと銀さんの身体にもたれかかるようにして座っていた。
「ごめんなさい……銀さんに、インフルエンザうつっちゃう……」
「銀さんは大丈夫。この前、ウィルス・ミスに罹ったから」
「なあに、それ?」
「あー、説明するとすげぇ長くなるしめんどくさいからはしょるけど、インフルエンザのひどいやつ?だから銀さん抗体できてるはずだぜ?」
「そうなんだ……」
「なあ、寒くないか?」
「大丈夫。銀さん、わざわざ半纏持ってきてくれたのね?」
「俺の半纏で悪いけど、神楽のうさぎ柄の半纏は美咲ちゃんにはちょっと小さいしな」
「ありがとう……」
「つーか、銀さんの加齢臭漂ってたらごめんな」
「ううん、ちょっと甘い香りがする」
「……そう?」
「うん……」
この半纏を着ているだけで、まるで銀さんに抱きしめられているような。
病院で早速薬を処方してもらい、部屋に帰った。
「美咲ちゃん、カギ借りるよ。銀さん買い物に行ってくるから」
ベッドに寝かされた私に、銀さんが言う。
「ごめんなさい……病院に連れて行ってもらったのに、そんなことまで」
「気にしなくていいって。美咲ちゃんは早くよくなることだけ考えてればいいから」
銀さんは私の頭を、よしよし、とするように撫でた。
身体の調子が悪いと、人恋しくなる。私はつい、
「すぐ帰ってきてくれる?」
と聞いてしまった。
「うん。美咲ちゃんが心配だから、一緒にいてあげるよ」
「ごめんなさい」
「大丈夫」
銀さんの手が私の手をぎゅっと握る。
優しい手。
色々な人を助けてきた、万事屋の頼れる手。
もちろん、こんなふうに優しくしてくれるのは、私が依頼人だからだ。
でも、今は少しだけ、この手に甘えたい。
そのまま私は寝てしまった。
とろとろと眠る夢の中で、銀さんが私を見つめていた。
「銀さん?」
私が呼ぶと、銀さんはすっと近づいてきて、優しくキスをしてくれる。
「すきだよ、美咲ちゃん」
「私も」
銀さんは微笑んで私を見ている。
これは夢。
熱に浮かされた私が見ている夢。
こんなふうに銀さんに愛されたいと思った私の幻想……。