第1章 甘い野獣(銀時甘裏)
受話器を置いてから、ほんの数分だっただろうか、部屋のインターホンが鳴らされた。
まさかそんなに早く銀さんが来るとは思っていなかった。
「万事屋銀ちゃんです」
「え?もう来てくれたの?」
「美咲ちゃん、とにかく開けて」
促されるままドアを開けると、銀さんが慌てた様子で、
「大丈夫か?」
と言いながら部屋に入ってきた。
白銀の髪に白い着流し。
高熱に苦しむ私にとっては、救世主のような姿だった。
「銀さんごめんなさい……、こんなことで来てもらって」
「そんなこと気にしなくていいって。インフルエンザだったら、すぐ病院行けばすぐに熱下がるから。病院行くぞ」
「え……?」
銀さんは呆けたままの私に半纏を着せてマフラーをぐるぐる巻く。
「すぐ近くに病院あるから、保険証どこ?」
「そこの引き出しの中に……」
「あーこれか。じゃあ行くぞ」
「ちょっと、あっ!」
腕を引かれてよろけた私を、銀さんの腕は何事もなかったかのように抱き止める。
「ごめんなさい……」
こんなに近くに銀さんの身体を感じたのは初めてだった。
「ああ、美咲ちゃん本当にインフルエンザかもしれねえな。すげえ熱いよ」
そして銀さんは、そのまま私の身体をひょいっと抱きかかえ、部屋を出た。
私は銀さんに抱きかかえられたまま、これってお姫様だっこっていうのかな、と熱にうかされた頭で考えていた。